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札幌地方裁判所 昭和33年(行)9号 判決 1963年10月28日

原告 日下博 外二名

被告 国

補助参加人 中央カオリン株式会社

主文

原告等の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、原告等の負担とする。

事実

第一、当事者の申立

一、原告等の申立

(一)  札幌通産局長が、

(1) 昭和二七年一月二六日訴外安藤庄治郎外三名に対してなした採掘権(十勝国採登第四五号)設定許可処分は無効であることを

(2) 昭和三〇年一月一七日補助参加人中央カオリン株式会社(以下参加人という)に対してなした試掘権(十勝国試登第一八三四号および同第一八三五号)設定許可処分は、いずれも無効であることを

各確認する。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求めた。

二、被告の申立

主文同旨の判決を求めた。

第二、原告等の主張

一、請求の原因

(一)  札幌通産局長は、昭和二七年一月二六日訴外安藤庄治郎外三名の申請に対して、鉱種名「耐火粘土」の採掘権設定の許可をなし、「十勝国採登第四五号を以て」その設定登録をなした。そして、現在参加人が右採掘権を所有している。

(二)  同局長は、昭和三〇年一月二七日参加人の申請に対して、鉱種名いずれも「耐火粘土」の各試掘権の設定の許可をなし、「十勝国試登第一八三四号および同第一八三五号を以て」その各設定登録をなした。

(三)  しかしながら、右各鉱業権の設定以前において、その同一鉱区内に昭和一二年六月二一日付で鉱種名「金、銀、銅、水銀」の採掘権が、昭和一八年五月一〇日付で鉱種名「金、銀、水銀」の採掘権が各設定されており、それぞれ十勝国採登第二一号および同第二四号(現在鉱区の分割により、それぞれ十勝国採登第九六号、第九七号および同第九八号、第九九号、第一〇〇号となつている)を以て登録済みである。

しかして、原告等は現在右採掘権を共有している。

(四)  従つて、前記安藤外三名および参加人のなした鉱業権の設定の申請は、いずれも原告等の所有鉱区と重複関係にあるところ、右申請は、いずれも本件地域(鉱区重複関係の地域)において、「耐火粘土」と「金、銀、銅、水銀」とは異種鉱床中の鉱物であるとしてなされ、札幌通産局長が右申請をいずれも許可し、これを登録したものである。

(五)  しかしながら、本件地域において「耐火粘土」と「金、銀、銅、水銀」が同種鉱床中の鉱物であることは著明な事実であつて、前記安藤外三名および参加人のなした申請は原告等の所有する鉱業権と鉱種名は異るが同種鉱床中の鉱物についての後願であるから重複申請として当然却下されるべきところ、これを無視した札幌通産局長の本件各許可処分は鉱業法第一六条、第二九条、第三〇条に反し違法な処分であり、右違法にはいずれも重大かつ明白な瑕疵がある。

よつて、原告等は本件各許可処分の無効確認を求める。

二、原告等の各鉱業権の鉱物(金、銀、銅、水銀)と参加人の各鉱業権の鉱物(耐火粘土)とが、本件地域において同種鉱床中の鉱物であるとの点について。

(一)  鉱床の同種、異種の判断基準

数種の鉱物の間で、それらが同種あるいは異種の鉱床中の鉱物であるかの判断は、具体的な出願の地域において全く鉱物学的な見地から決定されるべきである。すなわち、鉱物の成因ならびに賦存の状況を科学的に分析して決定されるもので、更に行政庁の裁量が入る余地はない。従つて、右観点から同種鉱床中の鉱物と認められる以上、その鉱物の鉱量の多少は、本質的には問題とはならない。

(二)  「金、銀、銅、水銀」と「耐火粘土」の本件地域における成因および賦存の状況。

本件地域において、「金、銀、銅、水銀」の母岩の全部または一部は石英粗面岩であり、一方「耐火粘土」は石英粗面岩質の母岩の著しく変質して粘土化したもので、両者鉱物の成因は同一である。従つて耐火粘土層中に金、銀、銅、水銀の石英塊または硫化鉄鉱の結晶等が不可分のコロイド状態になつて埋蔵されており、両者鉱物は全くの共存状態である。

第三、被告の主張

一、請求の原因に対する答弁

(一)  請求原因(一)、(二)、(三)、(四)はいずれも認める。

(二)  同(五)は否認する。

二、原告等の本件地域において、「金、銀、銅、水銀」と「耐火粘土」が同種鉱床中の鉱物であるとの主張について、

(一)  鉱床の同種、異種の判断基準

鉱床の同種、異種の判断は、鉱物学的な面からのみ判断されるのではなく、いわゆる鉱業法上から判断されるべきものである。すなわち、鉱物資源を合理的に開発することによつて、公共の福祉の増進に寄与するとの鉱業法の目的に従い、鉱物の賦存状態、鉱物の成因、操業上の諸問題(品位、鉱量、深度、立地条件――採掘試掘に適するかどうか、鉱業の技術とも関連する)、経済的な諸問題、重複する場合において他人の鉱業権の実施を著しく阻害することの有無、あるいは鉱床の完全な開発、死蔵を避けること等各種の面から判断されるべきものである。よつて、科学的判断ばかりでなく、当然行政庁の裁量が加わるべきものである。

(二)  「金、銀、銅、水銀」と「耐火粘土」の本件地域における成因および賦存状況

(1) 地質

本件地域の地質は、主として第三紀の堆積岩層から成り、その基底は凝灰岩である。またその上部は、角礫凝灰岩および変質凝灰岩が整合的に堆積している。また、これらの各岩を被覆してほぼ走向N七〇度W、傾斜二〇度ないし三〇度Sの珪質頁岩層、軽石質砂岩層、砂岩、頁岩の互層が順次累積している。

(2) 鉱床

鉱床は、主としてこれら水成岩層中に胚胎するものであり、その層序と鉱床胚胎との関係は次のとおりである。

すなわち、当地域においては珪質頁岩を境として、上下二つの岩相に分類することができ、それは下部の凝灰岩およびその変質帯と、上部の地表に極めて近い層序に当る軽石質砂岩および砂岩、頁岩互層部とである。耐火粘土(主としてカオリナイトを主とする粘土帯)鉱床は、この上下二つの岩相を分ける珪質頁岩を帽岩として、その下部の凝灰岩の変質帯に発達し、かつて辰砂(水銀鉱物)を採掘した箇所は珪質頁岩上部の砂岩、頁岩の互層中に発達したものである。なお、金、銀、銅の鉱床は、本件地域中には認められない。

(3) 結論

本件地域における耐火粘土鉱床はすべて珪質頁岩を帽岩として、その下部の凝灰岩、角礫凝灰岩を交代して発達している。これは、熱水溶液の上昇により母岩の凝灰岩の一部がカオリン化作用を受けて生成したものである。これに反し、戦時中水銀を採掘した鉱床は珪質頁岩上部の軽石質砂岩層中に極めて地表に近く主として鉱染状をなして賦存していたものであり、含水銀品位を極めて低くかつたといわれ、それも大部分採掘しつくされた模様である。

すなわち、母岩が著しく変質作用を受けた結果できた耐火粘土鉱床は、一般に鉱液の温度が高く、溶液が中性ないし酸性条件下で沈澱したもので溶液の上昇に伴い珪質頁岩を帽岩として、その下部の岩石を交代して生成し、これに対し水銀鉱床は、右帽岩の割れ目を通り更に上部の地層に鉱液の一部が上昇し、この鉱液の温度が低下し、かつ鉱液がアルカリの条件となり、辰砂が沈澱して生成したものである。なお、耐火粘土鉱床の帽岩をなす珪質頁岩の層厚は、完全な地質図を作成するには至らないが、工業技術院地質調査所において昭和二八年八月に当地の地質ならびに測量を実施しているが、それによれば約四〇米と測定されている。

以上により、本件地域においては、耐火粘土と水銀はその成因および賦存状況が全く異り、鉱床を異にするもので、共存していない。また、金、銀、銅については前記のとおり本件地域に鉱床は認められず、微量の銀が存在するのみである。

第四、参加人の主張

答弁として被告の主張を援用したほか、以下のとおり述べた。

原告等は、本訴において、無効確認を主張しえない。

原告等は参加人の施業案の実施について、次のような表示行為をなした。

(1)  施業案実施についての承諾(鉱業法第六六条)。昭和二八年一〇月二八日参加人は本件採掘権(十勝国採登第四五号)の前所有者と共に原告日下の父訴外日下徳松(当時は日下博の単独所有で、博は未成年者。)に対し、カオリン掘採の承諾を求めたところ、同人はこれを承諾した。

(2)  昭和二九年末、参加人は右日下徳松に対し参加人の鉱区外でかつ原告等の鉱区内から抗口を開さくすることの承諾を求めたところ、同人はこれを承諾した。

(3)  昭和三〇年八月参加人は本件重複鉱区内に存する用水路をカオリン精練のため、右日下徳松外一名から譲受けた。

(4)  参加人は、操業以来数千万円の資本を投下して設備をなし、我か国唯一のカオリン生産者として今日の地位を確立したものであるが、この間原告等は何等の異議も述べたことがない。

右の事情からすれば、原告等と参加人との間には本件鉱業権の設定に関し、参加人の鉱業権の存在を危うからしめるような主張はしないとの表示行為があつたもので、参加人はまたその表示行為を信頼して今日の事業形態を発展させたものである。

そうすると、いわゆる表示による禁反言の法理により、原告は参加人に不利益を与えるような主張は許されないものである。

更に、以上の事実関係からすれば、いわゆる失効の原則により原告等の権利(参加人に影響を及ぼすような主張をなす利益)は参加人に対する関係において崩壊していると称すべきである。

第五、証拠<省略>

理由

一、札幌通産局長は、昭和二七年一月二六日、訴外安藤庄治郎外三名の申請に基き、鉱種名「耐火粘土」の採掘権の設定を許可し、「十勝国採登第四五号を以て、」その設定登録をしたこと(以下、第四五号採掘権という)、現在右採掘権を参加人中央カオリン株式会社が所有していること、更に同局長は、昭和三〇年一月二七日参加人の申請に基き、鉱種名いずれも「耐火粘土」の各試掘権の設定を許可し、「十勝国試登第一八三四号および同一八三五号を以て」その各設定登録をなしたこと(以下、第一八三四号および第一八三五号試掘権という)、原告三名は鉱種名「金、銀、銅、水銀」の十勝国採登第二一号および同「金、銀、水銀」の同第二四号各採掘権(現在鉱区分割によりそれぞれ十勝国採登第九六号、第九七号および同第九八号、第九九号、第一〇〇号となつている)を共有しており、右採掘権は、昭和一二年六月二一日および昭和一八年五月一〇日付を以てそれぞれ登録されていること(以下、第二一号および第二四号採掘権という)、第四五号採掘権、第一八三四号および第一八三五号試掘権の各鉱区と第二一号および第二四号採掘権の各鉱区とは相当部分が重複すること、札幌通産局長は参加人の所有する各鉱業権は、その目的鉱物が原告等所有の各鉱業権の目的鉱物と異種鉱床中の鉱物と判定して、前記のとおりその鉱業権の設定許可処分をなしたこと、以上の事実はいずれも当事者間に争いがない。そして成立に争いがない甲第一号証および鑑定人湊秀雄の鑑定の結果によれば、第四五号採掘権および第一八三四号試掘権の各鉱区は、いずれもその約九〇%が、第二一号および第二四号採掘権の各鉱区と重複しており、第一八三五号試掘権の鉱区の約七〇%は、第二一号採掘権の鉱区と重複していることが認められる。

二、そこで右重複鉱区において、金、銀、銅、水銀と耐火粘土が同種鉱床中にあるか、あるいは異種鉱床中にあるかが本件の争点であるが、本件全証拠によるも第二一号および第二四号採掘権の各鉱区のうち、右重視した地域と、その余の地域とを明白に区分することができないので、結局その各鉱区が大部分第二一号および第二四号採掘権の各鉱区と重複している参加人所有の各鉱業権の鉱区につき判断することとする(以下、本件係争地域という)。前記鑑定人の鑑定の結果および検証の結果によれば、本件係争地域には金、銀、銅は極めて微量しか賦存せず、右鉱物の鉱床は全く存在しないものと認められ、他にこれを覆すに足る証拠はない。更に前記証拠ならびに成立に争いがない甲第二号証の一ないし三、同第三号証の一、二、乙第四号証、同第一二号証の一、二および証人横田清助同大山繁の各証言を総合すると、本件係争地域における水銀の賦存状況は極めて地表に近く、もつぱら露天掘により採掘されて来たものであるが、その品位は低く、かつその鉱量も乏しく、昭和二〇年末頃からほとんど稼行されていないこと、一方耐火粘土は、珪質頁岩を帽岩として地表より約二〇米以下に賦存し、その採掘にあたつては抗道を要すること、またその成因については、水銀鉱物は低温かつアルカリ性熱水溶液の上昇により、耐火粘土は高温かつ酸性の熱水溶液の上昇によつて生成されたものであることが想定されていることが認定できる。更に前記認定の結果および検証の結果によれば、参加人が現在耐火粘土採掘のため稼行している箇所には、水銀鉱物は極めて少量しか賦存せず、稼行の対象となり得ないことが認められる。

以上の認定を覆すに足る証拠はない。

三、ところで、鉱業法においては、同一地域であつても異種鉱床中に存する鉱物を目的とする場合には、二以上の鉱業権を設定することができるとされているのであるが、同種鉱床と異種鉱床との具体的判定基準について現行法はなんら規定するところがない。元来、鉱業法が原則として重複鉱業権の設定を制限する趣旨は、鉱業権の対象が鉱区内においては登録を受けた鉱物のみならず、それと共存し、または共存しうべき状態において産出する他の鉱物にも及び、かつ右権利が独占排他的権利であるために、複数の鉱業権を認めると相互の権利の限界に混乱をきたし、ひいては鉱物資源の合理的開発を阻害することに存するものと解せられる。そうだとすると、右鉱床の同種、異種の判定は、鉱物学的見地からして鉱物の賦存ならびに成因状況がどうなつているか、その賦存状態から複数の鉱業権が相互に妨害することなく稼行できるか、また当該鉱物の鉱量その他の条件から別個の鉱業権の対象とすることが鉱物資源の合理的開発の立法趣旨に添うかどうか等の諸事情を考察し、個々具体的な場合について自然科学的かつ産業的見地からなさるべきものと解するのが相当である。

そこで、本件の場合を考察するに、前認定の事実によれば、本件地域においては、金、銀、銅は極めて微量しか賦存せず、その鉱床は存在しないというのであるからこれを措き、水銀鉱物と耐火粘土との関係について検討を加えることにするが、右両鉱物はその成因を異にし、珪質頁岩を境にしてその上部と下部にそれぞれ賦存して両者は共存せず、水銀鉱物は露天堀により稼行され、一方耐火粘土は、その採掘にあたり抗道を要するもので、かかる採掘方法の相違により両鉱物の採掘は相互に支障を来たさないことがうかがわれ、また、本件耐火粘土を別個の鉱業権の対象とすることが鉱業の実態に適し合理的と認められる情況にあるので、右耐火粘土は、水銀鉱物とは異種鉱床中の鉱物ということができる。なお、耐火粘土の賦存部分の一部に水銀鉱物が鉱染していることが認められるが、極めて少量かつ低品位なものでこれをもつて右判断を左右することはできない。

そうだとすれば本件地域において金、銀、銅、水銀と耐火粘土は異種鉱床中の鉱物であると認めるのが相当であつて、結局札幌通産局長のなした本件許可処分はいずれも正当なもので、これと見解を異にし、右処分の無効確認を求める原告等の本訴請求は、その余の点を判断するまでもなく、理由がないことに帰する。

四、以上により、原告等の本件請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 寺沢栄 西山俊彦 東原清彦)

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